公務員受験界では社会人経験者採用試験(民間企業等職務経験者採用)が年を追うごとにその存在感を増してきています。特にここ数年で民間経験者枠を設定する自治体が急増しました。そこで今回は役所が社会人経験者を中途採用する理由(というか採用せざるを得ない事情)についてお話したいと思います。
社会人経験者の採用理由
社会人経験者採用ないし民間企業等職務経験者採用というのは、いわば公務員の中途採用枠のことです。数年前までマイナーだったこの採用枠が、最近になって俄然注目を集めるようになりました。
現在では、都道府県の約70%、全国で約200の市が、採用試験に社会人経験者枠(民間企業等職務経験者枠)を設定しています。国家公務員の「経験者採用試験」の採用人数も増加傾向にあります。
公務員というのは民間企業と異なり、新卒カードをなくしても新卒と同じ枠で受験が可能です。それでも一般大卒枠は30歳が上限です(35歳程度も増加傾向)。
一方、社会人経験者枠というのは基本的に30歳以上が対象です(一部例外もあります)。また、民間企業等に概ね5年以上勤めた経験のある方が対象です。
官庁がわざわざ中途採用枠まで設けて30歳以上の社会人経験者を欲しがる理由、それは、横並び意識や雇用の確保などもありますが、大別すると主として以下の2つの理由からです。
理由その1~役所の歪な年齢構成
国家試験というものは世の中に沢山存在します。しかし、その大半は国家資格を取得するための試験です。公務員試験というのは「就職試験」であるため、数ある国家試験の中でも特殊な試験と言っていいでしょう(「国家」試験ではありませんが、ここでは地方公務員も含めて考えます)。
公務員試験は就職試験ということで、他の資格試験と異なる点がいくつかあります。試験科目の面で、公務員試験が類稀なる多科目型試験というのも大きな相違点ですが、他の資格試験との最大の相違点は、その合格者数の変動の大きさにあります。
確かに、資格試験も毎年必ず一定数の合格者を出すとは限りません。年度によりわずかな変動はあるし、当該資格の置かれた市場環境の変化により、大幅に増加したり減少したりすることもあります。しかし、10年タームで見ても、公務員試験のように合格者数が1桁違うということはあまりありません。
ところが公務員試験の場合、10年間で最も採用数の多い年と最も少ない年を比較すると、採用人数が一桁異なるということが頻繁に起こります。
特に、世紀の変わり目からの10年間は、国家・地方を問わず公務員の採用数が激変した時代でした。20世紀の終わり頃は比較的安定していた採用数が、21世紀に入る頃に突如として激減しました。今年の採用数と比較すると10分の1の採用数という試験もザラにあります。その頃は、公務員になるのが本当に大変な時代だったのです。元の採用数に戻るだけでも長い年月を要しました。
つまり、公務員の年齢構成はかなり歪になっています。採用数の少なかった時代の、30代半ばの職員がポッコリと抜け落ちている形です。この年代の職員を経験者試験で採用することで年齢構成のバランスを整えるのが1つの理由です。
理由その2~管理職予備軍の増強
30代半ばといえば、部署内に後輩も増え、中堅として実務の中核をなしている年代です。若手に指導する機会も増え、そろそろ管理職としてマネージャー的役割を組織から期待され始める時期です。ところが・・・期待とは裏腹に、管理職に全く興味を示さない人が公務員には多いのです。
中の人に聞いた話では、優秀な人ほど管理職になりたがらないそうです。
これにはいくつか理由があります。
まず第1に、「余計なリスクを負わない」ためです。大抵の役所では、大臣や知事、市(区)長といった「政治家」がトップに立ちます。トップの交代は選挙によって決められます。そして、トップが交代した途端、上層部を総取っ替えすることがあります。米国ほど極端ではないにしても、日本でも政治主導の色合いが以前より増してきています。トップが替わった途端、局長以上が全て閑職に飛ばされるのを目の当たりにすると、敢えてそのようなリスクを負ってまで出世しようとは考えないクレバーな職員が増えているのです。
特段出世しなくても公務員は身分が保証されているのに、態々余計な責任を負わされたくないという考えの職員も多いようです。
管理職になりたがらないもう1つの理由として、現場を離れたがらない職員が多いということが挙げられます。特に専門職系の人にこの傾向が強いようです。ただ、いくら現場が好きでも、50の声を聞く頃になるとそろそろ現場から離れて管理側に回らざるを得なくなります。そこで、50歳を機に役所を退職した人がいました。現場を離れて管理や他人の指導をするぐらいなら「役所にいても意味がない」と。結局、関連団体の現場職員として転職してしまいました。
この手の話はよく耳にします。とある自治体では、管理職試験の受験要件を満たす職員のうち、わずか5%しか昇任試験を受けないそうです。
他にも、女性が多い職場では、子育て真っ只中の30代は「仕事と家庭の両立」がメインテーマの職員も多く、イレギュラーな仕事の増える管理職には就きたがらないといった理由も挙げられます。具体的にどこかは明かせないですが、ある職位に留まっている限りは残業が皆無で、ワンランク上がると残業がドバッと増えることで有名な役所があります。だから「子育て中の女性は昇任試験をまず受けない」と。基本給が5万円もアップするのに、です。
まあしかし、子育て中に他人の面倒まで見る余裕はないというのも分かります。
まとめ
このように、年齢構成のバランスが悪い上に、組織側が期待する役割と本人が望む職務にミスマッチが生じています。それなら、外部から候補者を登用するしかありません。これが、社会人経験者枠を設けて民間から中途採用を募った理由です。
管理職として「泥を被ってもいい」という民間からの転職者は大歓迎です。「我こそは」と思う方は是非、社会人経験者採用試験を受験してください。むしろ出世を望む人にはうってつけの試験です。民間企業で苦労した経験は、面接官に対するアピール度高しです。
以上、役所が民間企業等の社会人経験者を公務員として中途採用する2つの理由でした。
(概ね正しいとは思われますが、あくまで個人的な推論であることをお断りしておきます)